地熱井で、掘削中に地質や貯留層などの位置を予測することは、調査者に非常に難しい解析の一つだ。しかし、お客様はそのことを強く望んでいる。特に、予想した断層や貯留層の場所近くになったり、掘削計画深度に近くなると、その要求が日増しに強くなる。数多くの位置選定や掘削計画、解析を行ってきたが、その要求は悩ましいものである。地熱井の掘削の成功か不成功かは、掘削中の逸泥があるかどうかであり、さらには逸泥の規模が大きいかどうかで決まってくる。

坑井の地質解析者は、カッティングスを見て掘削前に予め作成した予想地質や地熱構造と対比しながら、現在の地質や地熱構造がどうなっているか細心の注意を払ってみていなければならない。もちろん、予測が全て当たる訳ではなく、予想外の返照に対し。予想モデルの修正を常に行っていく訳である。地熱構造や貯留層構造を熟知していれば、それらに到達する前に、何等かの徴候を捕まえて、現状がどうなっているか、貯留層が近いかどうかは分かってくるものである。ところが、これを一般の人に伝えるのが難しい。そういう苦労をしながら、北アルプスの一角で本格的な地熱井の掘削を行い、無事に貯留層を捉えることができた。しかも、大規模な貯留層は、掘削予定深度まで、ほんの数メートルのところである。多くの人は失敗を覚悟していたようだが、貯留層が存在しそうだとという既に200m手前を掘削しているときからその予兆はあった。したがって、坑底近くの貯留層に当たった時も私にとってはやっぱりなという感じであった。貯留層の存在を確認したことで、関係者一同は歓喜し、まるで奇跡が起こったかのように喜ばれているが、専門家の私からはそれはちょっと違うのである。やはり、解析の質や、経験の力は大きいのである。改めて実感した。